「研究概要」


 動物細胞は組織内をどのように移動するのだろうか?組織中の細胞は多様な細胞外マトリックス(細胞外マトリックス;ECM)分子や細胞間接着分子によって規則正しく接着固定され、安定な組織を形成している。一方、悪性な癌細胞は組織内を積極的に移動(浸潤)し、やがて遠隔臓器に転移する。言うまでもなく、転移は癌の治療を困難にする最大の要因であり、転移機構の解明は癌の克服のための重要な課題である。近年の研究から、癌細胞は多様な細胞外分子と相互作用しながら、正常組織を浸潤し、転移することが明らかになってきた。
 これまで当研究グループは、癌の増殖や浸潤転移を調節するいくつかの分泌性蛋白質を見いだし、その作用を明らかにしてきた。例えば、ECM分子の一種であるラミニン5は細胞の接着と移動を促進し、ECM分解酵素の一種であるマトリライシン(MMP-7)は癌の転移に重要な役割を果たすことが明らかになっている。現在、細胞の接着、移動、増殖などを調節する、これらECM蛋白質とECM分解性プロテアーゼの作用に注目しながら、癌転移のメカニズムを調べている。また、これら細胞外分子の研究は癌のみならず、組織構築の原理や、正常組織細胞の機能(増殖、接着、移動、分化)の調節機構を理解する上で必須と考えている。

図1.癌細胞の浸潤過程におけるプロテアーゼの作用のモデル。
   細胞膜上および分泌性のプロテアーゼが周囲のECM分子を分解し、
   癌細胞の移動を助ける。